ワールドジョイントクラブ » 日本の外来生物 » お盆過ぎ、大音量の虫の鳴き声が聞こえてきたら…… – アオマツムシ

前翅をこすり合わせて鳴くアオマツムシの雄。雄が近くにいるときなどは昼間単独で鳴いていることもある

鳴くことのない雌の羽は緑一色。昼間はこのように触角と足を揃えて葉と並行に止まっており、葉のあいだに隠れていることも多く見つけにくい。産卵も木の枝に行い、一生樹上から離れることはない

こちらは童謡『虫のこえ』にも歌われている在来種のマツムシ。「チンチロリン」という鳴き声は、地方に行けば高速道路のサービスエリアなどでも聞くことがあるが、都市近郊では幻の虫となりつつある
お盆を過ぎた頃になると、街路樹の上からアオマツムシの声が聞こえてくる。いや、「聞こえてくる」なんて生やさしいものじゃない。木全体が鳴いているようなリーリーリーという合唱は、頭の奥まで響いてくる大音量だ。
この虫はもともと中国南部原産。明治末期、日本で最初に発見されたのが東京赤坂というのが帰化昆虫らしいところ。輸入された苗木について運ばれたもののようだ。東京では戦災で多くの街路樹が焼失したため、一時は数を減らしたが、戦後に再び増えていった。
アスファルトやコンクリートで覆われ、乾燥した地面に街路樹などの緑が点在する環境は、もともと日本にはない、サバンナに近い環境。そのため、それを利用する昆虫も存在しなかった。また、鳥や肉食性の昆虫などが都会には少なかったことも、アオマツムシに最高の生息地を提供することになった。現在では東北地方にまで広がっているという。
木の上で合唱しているときにはどこにいるかわかりにくく、目にふれる機会は少ないが、見つけてみればコオロギの仲間とはちょっと思えない、紡錘形の体。全体が緑色なのは、樹上の生活に対応した保護色だ。ジャンプ力はあまりないが、そのかわりにかなりの距離を飛ぶ能力を持っている。これが生息地を広げる武器でもあるのだろう。
古来、日本人は数々の虫の音を聞きわけ、愛でてきた。虫の音を言語脳(左脳)で聞き、意味のあるものとして反応するのは、世界中で日本人とポリネシア人だけという研究結果もある。日本人にとって、虫の音は文字どおり「虫の声」だったのだ。
だが、今ではスズムシやマツムシの鳴く草むらは遠く、都会の喧噪の中でアオマツムシの合唱だけが響いている。それは長いあいだ育まれてきた、日本人の情緒を少しずつ変容させているのかもしれない。
文・撮影/上田泰久 道草ネイチャーウォッチング
写真協力(マツムシ)/群馬県立ぐんま昆虫の森