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街が元気になれば世界は変わる – 吉原勝己(吉原住宅有限会社) 2010.06.20



吉原住宅 有限会社 スペースRデザイン 代表取締役 吉原 勝己

業界の常識は常識ではない

 賃貸業界に革新を起こし、街を元気にする取り組みをしている不動産会社がある。福岡市にある吉原住宅だ。代表取締役の吉原勝己さんは、自らの仕事を「空間サービス業」と呼んでいる。

 現在の旭化成に入社し、医薬品開発部などに勤務した吉原さんは、信頼関係と情報が商品である姿勢を70人の営業に伝える、教育者の役割を果たすなど、外資系の競合会社がひしめき合う世界の第一線で活躍した。

 退職時、上司から言われた「仕事は自分のものにしたときに、楽しいものにしていける」という言葉を胸に、家業を継ぐかたちで吉原住宅に入社した。

 医薬品開発から不動産業という異業種への転身。さぞや苦労も多かったのではと思ったが、「不動産も医薬品も、お客様の満足度を追求するという点では同じ。それにわたしは、異業種だからこそ、今の会社のかたちが作れたと思っています」と語る。

 吉原さんが入った当初の不動産業界は、医薬の世界に比べて変化しにくい世界のように思えたという。 「業界の常識は、常識ではありませんから。異業種の人間だったからこそいろいろ教えてもらえたし、反対に言うことができた。そういうことが大切なんだと思います」。

 現在吉原住宅では、情報収集する人、土台を作る人、経営革新を実現する人など、メンバーそれぞれが違った役割を持ち、常にイノベーション(革新)が進められている。


新しい提案「リノベーション」

吉原住宅 有限会社 スペースRデザイン 代表取締役 吉原 勝己

 ビルが古くなり空室が目立つようになると、オーナーはビルの建て替えを考えるが、その費用は莫大だ。しかしそのままでは借り手はつかず、オーナーに苦しい思いをさせることになってしまう。古いビルを多く所有していた吉原住宅は、この問題にいち早く対応するために、「リノベーション」に取り組んだ。

 ビルが壊される一番の理由は、配管の老化だ。耐震の問題などがあり一概には言えないが、配管を新しくすれば、さらに30年ほど使える物件もある。

「すべての人が新しさを求めているわけではないと思ったのです。古いものの中に価値観を求める人もいる。わたしはそこに可能性を感じました」。古き良きところは活かしつつ、必要なところにだけ手を加えることで、他にはないオリジナル物件を求める消費者から多くの賛同を得ることができた。

 もともとはビル経営管理会社で、建築のプロではなかったが、だからこそ建築の概念に捉われずに、「ビル再生」に自由に取り組めたのだという(写真1)。

 ライフスタイルにあったリノベーション物件が選べる、山王マンションの「ライフスタイルデパートメント」やKYOYA薬院ビル、石井ビル、廃材を極力出さずに費用も抑える「エコリノベーション」など、古くて新しい挑戦が日々続いている。


街を元気にする仕事

吉原住宅 有限会社 スペースRデザイン 代表取締役 吉原 勝己

吉原住宅 有限会社 スペースRデザイン 代表取締役 吉原 勝己

 吉原さんがリノベーションでのビル再生にこだわるのには、他にも理由があった。

「例えば築40年のビルであれば、40年分のコミュニティが形成されます。それを失ってしまうことは、街にとって痛手です。ビルを管理する私たちがその意識を持たなければ、と考えています」。新しいビルにはオートロックなどがあり、コミュニティが育ちにくい。その中で、もともと古いビルが持つコミュニティの力を伝えていく「市民への啓発」も仕事の一つだという。

 古いビルの再生で話題の冷泉荘では、「ひと」「まち」「文化」をキーワードに、地元の人が気軽に使えるよう、多目的スペースや図書室(写真2)を作るなどして広く解放している。「うれしいのは、遊びにくる子どもが増えたことですね。彼らに、古いものの良さを理解する心を伝えていきたいです」。また、福岡にある古いビルの魅力を伝えるために、NPO法人福岡ビルストック研究会を立ち上げ、ビル見学会や勉強会(写真3)なども行っている。

「イタリアの世界的有名自転車ブランド・ピナレロ・のオーナーと会う機会がありました。彼の家族は会社をあえて大きくせずに、技術やこだわりを突きつめました。それは、昔の日本の家族経営のかたちによく似ています」。 世界を見ながらも足元を固めることが大切だと語る吉原さん。福岡を良くしたいと願うからこそ、その第一歩として地元での活動にこだわり続ける。

吉原住宅有限会社 吉原勝己

吉原勝己(よしはら かつみ)

株式会社スペースRデザイン

九州大学理学部卒。吉原住宅有限会社代表取締役。福岡を元気にしたいと精力的に活動を続けている。不動産仲介の株式会社スペースRデザイン代表取締役、NPO法人福岡ビルストック研究会理事長、福岡路地市民研究会事務局長、エントランスカフェ経営を兼務。著書に『エンジョイ、レトロビル! 未来のビンテージビルを創る』がある。