ワールドジョイントクラブ » ビジネス最前線 » 老舗が開発したこんにゃく麺が世界を席巻する – 石橋 渉(有限会社石橋屋)


国内外で人気の「雑穀こんにゃく麺」。パスタや焼きそばの麺としても使える。赤、黄、緑の3色を販売
手作りにこだわったこんにゃくは、大量生産・大量消費の時代を生き残り、ひとつのブランドを打ち立てた。1877年創業の老舗、有限会社石橋屋。国内でもわずか数件だという昔ながらの製法「バタ練り」の味が、世界へと広がっている。
石橋屋が受け継いだバタ練りとは、金属製の羽が付いた箱の中で、熟練の職人が勘と経験により蒟蒻芋粉を手で練り上げていく製法。練る過程で羽が出す「バタバタ」という音から名付けられた。通常のものよりも空気を混ぜ込むため、独特の歯ごたえと味染みを生むという。
伝統の味が愛されてきた石橋屋が、初の海外進出を果たしたのは、2002年のことだった。「日本では当たり前に食べるこんにゃくを、海外の人がどんな風に食べるのか見てみたい」。代表取締役の石橋渉さん自ら、シンガポール大丸で行われた九州フェアの売り場に立った。サンプルとして提供したのは、日本でもお馴染みの煮物と刺身。コリコリとした食感がうけて定番商品化したものの、大きな課題が残った。
「受け入れてくれたのは、日系の人やアジア系の人。欧米人は食感、色、匂いも苦手。食べ方もわからない人たちにどうやって売るかを必死に考えました」
そこでパスタやサラダなどで使いやすい麺タイプのこんにゃくを開発した。穀物と野菜をブレンドし、食欲をそそる赤、黄、緑の3色を使用することで、匂いと色を改善。ソースとの絡みやすさ、のど越しの良さを追求した星型は造型に難があったが、工程に伝統のバタ練り製法を応用し製品化にまで漕ぎつけた。こんにゃくのヘルシーさが人気を博し、現在ではアメリカ、フランス、インドをはじめ15カ国に広がった。
「日本にとどまっていては新しい発想は生まれなかった。海外に行ったからこそ、イノベーションが起こせたんだと思います」

職人が丹精込めて作るこんにゃくは、1日4,000~5,000個。山間の工場から、日本全国、世界へと届けられる
もともと、製造元の地域でほとんどが消費されるこんにゃく。4代目である石橋さんが店を継いだ1990年当時、台頭してきたスーパーマーケットが消費の中心だった。大量消費の時代へと変化し、バタ練りこんにゃくだけでは製造が追いつかず機械化に踏み切った。売り上げは伸びた反面、減っていく手作り商品に迷いを感じた。
「機械で大量生産するこんにゃくは商品自体の差別化もできず、価格での勝負。そんななか、関東の同業者の工場を見学する機会があったのですが、うちが考えた機械化とは規模も生産量もまったくレベルが違い、この方向性ではだめだと痛感しました。そこで、昔ながらのバタ練りこんにゃく一本で勝負することを決意したのです」
売り上げの7割を占めていた機械をすべて処分し、地道な営業は約10年。それが時流に乗った。世は「地産地消」「お取り寄せ」ブーム。伝統の味が認められはじめると、石橋屋の商品は百貨店や高級スーパーなどに並び、「こだわり商品」の先駆けとしてブランド化に成功した。

石橋さんの名刺には英語表記も。外国人にはこんにゃくの発音が難しいらしくニックネームの表記は「Mr.konjac」
ただ、すべてが順風満帆とはいかなかった。手作りに一本化したあと、国内販路を広げるために行った「マネキン」と呼ばれる店頭販売は年間100回にも上った。 「営業の仕方もわからず、実績もない。とにかく飛び込みで片端から店舗を回りました。売れ残ったものは全部返品というリスクを背負ってまでやりましたよ」
海外でも売り方は同じだ。店頭に立って自慢の商品を売り込む。言葉が通じなくても、かける言葉は「いらっしゃいませ」だ。 「実際に向き合うことで、食べた反応を見ることができるし、意見を聞くことができる。私が売り場に立つこと自体がマーケティングになるんです。顧客が満足してくれているのかどうかを見極められる。お客さんに喜んでもらうことを、海外でも大事にしていますから」
店頭販売に徹底した営業は海外でも評判を呼び、「ミスター・コンニャク」とニックネームがつくほど。今では海外での商談をはじめ、大学での講演や産学連携の研究など、多忙を極める。
こんにゃく麺の成功にとどまらず、現在はコンニャクパウダーの商品化に躍起だ。約90%が水分のこんにゃくは輸送コストがかかり過ぎ、いくら需要があったとしても高価格がネックとなる。それをパウダー化することでコストを削減。デザートなどに活用することでカロリーを抑えられるため、健康食、ダイエット食としての需要が見込める。さらなる世界進出を目指し調理師を雇うなど、メニューの開発にも余念はない。
「ビジネスに国境はありません。こんにゃくをはじめ日本伝統の味は日本技術と相まって、レアアースならぬ・レア農産物・として世界と戦う武器になる。日本の文化もイノベーション次第でもっともっと強くなります。そのイノベーションを生み出すためにも、発想の転換を得られる海外の市場開拓を行うのです」と石橋さん。 「普通に作って普通に売っても、おもしろくない。人がやってないからおもしろい」。フロンティア精神が育てたミスター・コンニャクの挑戦は続く。

有限会社石橋屋
1877年創業。133年にわたり、伝統のバタ練りと呼ばれる製法でこんにゃくを作り続けている。一番人気は通常のブロックタイプの「本手延べ蒟蒻(黒)」。麺タイプのほか、しらたき、さしみこんにゃくなども販売している。
福岡県大牟田市上内529 TEL. 0944-58-6683

石橋 渉
有限会社石橋屋
1957年、福岡県大牟田市生まれ。高校卒業後、家業である、こんにゃく製造業「石橋商店」に入社。1990年、先代から店を引き継ぎ、1992年に有限会社化する。屋号を「石橋屋」として、創業130余年の伝統の味を世界に広めている。