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愛すべきダメ人間を描く 芥川賞作家 西村賢太の実像とは – 土佐有明 2011.04.01



 芥川賞がひさびさに盛り上がっている。それも、普段純文学に親しみのない層を巻き込んでの過熱ぶりである。朝吹真理子、西村賢太という受賞者ふたりの経歴やルックスが冗談のように好対照であることは、“美女と野獣”といったコピーで煽り立てる週刊誌やスポーツ新聞でもすでに報じられているとおり。三井財閥の末裔でフランス文学者/詩人の父を持つ朝吹と、中卒でフリーターで前科者の西村という両者の格差うんぬんは“ネタ”として食いつきやすかったのだろう。文学界の外部にワイドショー的な“ネタ”が波及することで、結果的に文学界の内部が恩恵にあずかるという構図は、綿矢りさ、金原ひとみのダブル受賞に沸いた04年とまったく同様だ。

 インターネットで野次馬を巻き込んだことも、結果として“祭り”を加速させた。決定打となったのは、ユーチューブにもアップされている、選考会当日の西村の記者会見映像だ。とくに、「受賞の知らせを聞いたときは何を?」との質問に、「そろそろ風俗行こうかと思っていた」と答えるあたりは、芥川賞史上に残る“名シーン”と言っていい。また、「普段僕は誰とも喋らないし、友だちはひとりもいない」といった自虐的な発言は、非モテ/非リア充を自称するネット住人たちの共感を呼び、2ちゃんねるでヒーロー扱いされる事態にまで発展。書店にも、「中卒の男性作家が最近賞を取った作品はどこだ?」なんて問い合わせが数多く寄せられたという。

 そんな西村の小説は、受賞作『苦役列車』に限らず、すべてが自身の実体験をベースにした私小説である。どれを読んでも同じようなことが書いてあって、そして、どれを読んでも面白い。面白い、というのは娯楽性が高い、と言い換えてもいい。個人的な出来事を綴った純文学でありながら、エンタメ作品としても飽きずに読めるのである。

 設定上の頻出キーワードは、酒、暴力、風俗、借金といったところ。日雇いで生活する自堕落な主人公が、酔った勢いで暴言を吐いたり暴力を振るう場面が、形を変えて何度も何度も登場する。彼女ができた友人に罵詈雑言を吐くシーンが印象的な『苦役列車』は、さしずめ、嫉妬と怨みとやっかみが交錯する究極の逆ギレ小説、といったところだろうか。金がらみのエピソードになるとだらしなさが浮き彫りになるのも特徴で、母親から強引に金をむしりとったり、家賃や借金を踏み倒したり、風俗嬢に金を騙し取られたりと、まあダメなことダメなこと。繰り返すが、これらはすべて実話が元なのである。

 しかし、どれだけ破滅的な話を描いても不思議と陰惨な印象はなく、主人公の最低な行状はむしろおかしみを誘う。「トイレの便座をあげなかったから」なんて理由で彼女を殴りつける『どうで死ぬ身の一踊り』などは、その典型だ。西村の天才ぶりは、ここまでヒドいと失笑するほかないという絶妙なラインを狙って、主人公の愚行を戯画的に描くテクニックにある。横暴な主人公の一人称が「ぼく」だったり、会話文が古めかしい近代文学調なところも独特のユーモアを生んでいるが、こうした文体操作によるキャラの立たせ方も、明らかに意図的なものだ。重度の私小説オタクとして知られ、カルトな私小説作家・藤澤清造の没後弟子を自称する西村は、中卒ではあるが、小説家としてはかなりの巧者なのである。

 受賞から1ヵ月以上経った2月末現在も、西村の人となりへの注目は高まる一方だ。インタビューで「賞は獲ったが仕事の依頼はまったくない」とボヤいたり、対談で「印税が入ったら風俗で3Pに挑戦したい」と告白したりと、相変わらず鮮度の高い“ネタ”を提供し続けている。過去に強姦強盗の罪で逮捕されている父親についても、「こいつが死ねば、僕の生い立ちも書けるんですが」と冗談めかしつつ触れている。

 たしかに、西村賢太という人の言動は面白い。だが、小説のなかでデフォルメされた西村の分身は、さらに面白い、じつに愛すべきダメ人間なのである。仮に西村が非モテの希望の星であるならば、祝福の意味も込めて、まずは小説を購入してみるべきだ。“ネタ”としてその振る舞いを消費するのも結構だが、どうせなら、作品も含めて徹底的に面白がってあげようではないか。

WJC vol.62 (2011.3.20発行号)掲載
土佐 有明(とさ ありあけ)
1974年生まれ。ライター。『ミュージック・マガジン』『MARQUEE』『東京新聞』などで、音楽評、演劇評、書評などを執筆中。過去の著作などは個人ブログhttp://d.hatena.ne.jp/ariaketosa/を参照。ツイッターは@ariaketosaにて。

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