ワールドジョイントクラブ » 紳士・淑女の休息 » 自分のペースを守るためのコツは競合を避けた趣味の時間-田中要次(俳優)

多くの作品に独特の雰囲気を作り出し
観る者に強烈な印象を残すBoBAこと田中要次さん
しかし休息時間は意外に小心者(?)のようです
取材・文/高橋 満 撮影/尾形和美
屈強なイメージとは裏腹に
シャイな性格の持ち主
撮影中、羽織っていたシャツを脱いでほしいとカメラマンがリクエストしたところ、「ドクロのTシャツを着ているのがばれちゃいますよ」と照れてみたり。その風貌から寡黙で屈強なイメージがある田中要次さん。趣味もスタンドアップパドル・サーフィン(ロングボードに乗りオールで漕ぎながら楽しむサーフィン)やボルダリング(命綱なしで行うフリークライミング)など自然相手のタフなスポーツを挙げているのだが……。
「いやあ、僕は昔からインドア派ですよ。子どものころの趣味はプラモデル作りでしたからね。いまも休日は猫と戯れたりネットサーフィンをしたり。あとは衛星放送などで好きな映画を録画し、それをブルーレイに落としたり。普通に焼けばいいものを、ラベルに凝ってチャプターをつけたりしちゃうから時間ばかりかかってしまうんですよ。焼いただけでまだ観ていないものが100本以上、ビデオ時代まで含めると200本以上あります。ただ、この歳ですし放っておくとどんどん体型が崩れてくるので、何かスポーツをしなければと思い続けてはいたんですよね……」
スタンドアップパドル・サーフィンは数年前に番組のロケで出会ったスポーツ。一般的なサーフィンが波を捉えて果敢に攻めていくのに対し、こちらは海を漂いながら自分のペースで楽しむことができる。王道ではないため周囲を見わたしても誰もやっていないというところも気に入った。
「競技人口が多いと自然にそのなかで競い合いが生まれますよね。僕はそれだけで入り込めなくなってしまうので、スタンドアップパドル・サーフィンの存在を知ったときはまさに目からウロコでした。これなら自分でもできるって(笑)。すぐに道具を買い揃えましたよ。ロケ後にあらためてやってみて、本当にのんびりしたスポーツであることを再認識できました。周囲で誰もやっていないという状況は現在でも変わっていません。ちょっと沖まで出ればすぐひとりきりになれますから」
もうひとつのボルダリングは取材前日に初挑戦したそう。こちらはスタンドアップパドル・サーフィンとは少し状況が違っていたようだ。

初挑戦のボルダリングでは若者たちの勢いに圧倒され半泣き状態だったという田中さんだが、110°の壁にも果敢に挑戦したというのはさすが!
「たまたまテレビを観て気になりだしたのは数年前なんですよ。運転中に施設を見つけていつか行ってみようとずっと思っていたのですが、なかなか機会がなかった。そんなとき偶然に渋谷のド真ん中に施設を見つけてしまいまして。僕の頭のなかではそんなに流行っていなくて、ひとりでひとつの壁を占拠できるくらいのイメージで行ってみたら……。ものすごい数の人が押しかけていたんですよ。それでもやってみようと係の人に『登る順番はどうなっているの?』と聞いたら、『とりあえずそこに立っていてください』と。しかしどれだけ待っていても自分の番なんて回ってこない。みんな無言で、我先にと登り出してしまい、僕が待っていることなんて誰も気づいていないんです。例えるなら動物がボンと餌を出されて我先にと食べているような状態。食べられなくて飢えるのは自分のせいという雰囲気です。しょっぱなからガツンとぶちのめされ、おじさんは半泣きでした(笑)。次は人が少ないという平日の午前中か、あるいは思い切って大自然の岩にアタックしてみようかと考えています」
競わないことで結果的に
長続きしたものも多い
気持ちが押し寄せると試さずにはいられない。でもそのなかで競い合うことは避けたいから、結果としてマイナーなものに挑戦する……。田中さんは『自分に負荷をかけたくないから』と言うが、言い換えるなら自分のペースを守りながら長く楽しむために身につけた術。
「若いころ『将来はプロミュージシャンになる!』というお題目を掲げちゃう友だちがたくさんいました。でもそういう人ほど現実は思いどおりになっていないことが多い。きっと熱くなったぶん、折れたときのショックも大きいのだと思います。僕も小学6年生のときにギターを始めましたが、中学に入ると僕よりうまい人が現れてしまった。普通ならそこで負けたくないと思うのでしょうが、競い合うのが好きではないので、ころっとベースに転向してしまいました。すると高校に入ったとき、ギターのやつがベースもやり始めて、あっという間にチョッパー奏法をマスターして……。仕方なく僕は鍵盤に転向しました。結果的に周囲で鍵盤を始める人はいなかったので、10年以上続きましたね。人がやっていないほうに流れていくというのは、どうも僕なりの自己防衛手段なのかもしれないですね」
自己防衛と田中さんは謙遜するが、新しいことを始めるのは若くても年齢を重ねてからでもパワーが必要なもの。それを難なくこなしているのは自分を俯瞰し、どうすれば結果的に好きなことを長続きさせられるかを理解しているからにほかならない。これは役者という仕事にも通じるところがあるのだろうか――。
「おそらくあるのでしょうね。僕は『絶対に俳優になってやる!』という熱い志を持ってこの世界に飛び込んだわけではありません。映画が大好きで映画館通いを続けていた自分が、その延長で映像を作ることに関わりたいと思うようになった。そのときは役者だけでなく照明の仕事などもやっていました。もちろん裏方仕事も厳しい世界なので、先輩に何度も叩きのめされましたよ(笑)。でもとにかく撮影現場にいられるのが嬉しかったんです。そんな生活を続けているうちにターニングポイントがあり、役者一本でやることになりましたが、いまでもときどき感じることがありますよ。『理想を追い求めずに安全なところから始めているのはカッコよくないな』って。でもそれが僕なりのやり方なのでしょう。大きな憧れを持たずにできることからやっていくというのがね。もしかしたら『俺は将来、芝居の道で成功してやる!』という友人がいたら、僕は芝居の道へは進まなかったかもしれません」
気持ちが冷めにくいぶん
諦めが悪いタイプ?

スタンドアップパドル・サーフィンを楽しむ田中さん。誰にも邪魔されずひとりで海に漂っているのは至福の時間だという
熱い思いがある人たちが当たり前のように通る道を、自分は避けてしまうから基礎が身につかないという田中さん。映画も名だたる作品をひと通り観るのではなく誰も観ていないような作品ばかりを探していたから、おかしなことになってしまったと笑う。しかしそんな田中さんに多くの人が魅力を感じているからこそ、映画やドラマ、さらにはCMやミュージックビデオなど、多くの映像作品への出演依頼がやってくる。周りと同じように肩に力を入れて挑まなくても、無理せず自分流のやり方を貫けば道は開けるはず。
「力が抜けているせいか変な火のつき方をしないので、いわゆる『熱しやすく冷めやすい』という状態にはならないことが多いですね。おそらく僕は冷めないぶん、諦めが悪いタイプなのでしょう。楽器にしてもいろいろなものに手を出してきましたが、ベースはいまも手元に残っています。最近はヤマハから出たTENORI-ONという電子楽器をいじっていますよ。これも周りにやっている人がいないので手に入れてみたのですが、あまりにもわからなくて困っています。こうなってしまうと誰にも教わることができないのが難点ですね(笑)。10年ほど前まではスノーボードもやっていました。ベースもスノボも納得するまでやったわけではないし、かといってやめてしまったとも思っていないんですよね。スタンドアップパドル・サーフィンもボルダリングも、こんなペースで続けていこうと思っています」


田中要次
俳優
1963年8月8日生まれ、長野県出身。国鉄(分社後はJR東海)に勤務後、俳優を志し上京。2001年、ドラマ『HERO』にて「あるよ」しか言わないバーテンダー役で注目を集める。代表作は『鮫肌男と桃尻女』『キル・ビル』『銀色のシーズン』『桜田門外の変』など。2011年は『サラリーマンNEO Season6』(NHK/毎週火曜22:55~)や、新宿バルト9ほかで全国公開された映画『極道めし』に出演。