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オリオン座のかたちが変わる? ベテルギウス爆発へのカウントダウン – 可知 朗 2012.04.20



 間もなく、我々は人類史上初と言える大規模な天体ショーを目にしようとしている。じつはオリオン座のアルファ星であるベテルギウスが、いまにも超新星爆発しようとしているのだ。

 爆発が起きたら、こんなプロセスで我々はその事実を知ることになる。

 2012年X月X日、岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデのチェレンコフ検出器が、おびただしい量のニュートリノを検出する。すぐに米国の“超新星早期警報システム(SNEWS)”がデータを解析し、わずか30分後、ベテルギウスが大爆発を起こしたという衝撃的なニュースが世界に向けて配信される。

 ベテルギウスは地球から640光年離れた星で、こん棒を振り上げたオリオンの右肩に位置し、0~1.3等に変光する赤色超巨星である。専門家の研究によると、ここ15年でベテルギウスの質量は15%も減少し、さらに表面から大量のガスを噴出するなど、赤色超巨星としての典型的な末期症状が観測されているのだ。

 一般的に恒星の最期にはふたつのパターンがある。比較的小さな星(質量が太陽の8倍以下)は、水素が燃え尽きると膨張と収縮を繰り返しながら表面のガスを放出し、最終的に重い核だけの白色矮星となる。

 一方、大きな星(質量が太陽の8倍以上)の場合、水素が燃え尽きると中心に鉄の核ができ、核自体の重力によって内側に崩壊する。このとき、大量のニュートリノを放出しながら大爆発を起こすと言われる。これが超新星爆発である。

 爆発の瞬間、ベテルギウスの表面は100万度の高温になる。爆発から1時間後には青い光が肉眼でも見られるようになる。2時間後、全天で最も明るい恒星シリウスに並ぶマイナス1.5等級となり、3時間後には半月と同じマイナス11等級となって夜空を煌々と照らす。もし季節が夏でも、昼間の青空のなか、太陽の近くにギラギラと鋭い光を放つベテルギウスが見えるはずだ。この状態が3ヵ月ほど続く。そして徐々に光度が落ち、4年後には肉眼で見られる限界の6等星となり、ついにベテルギウスはオリオン座から姿を消す。

 ところで、今世紀に入ってから超新星爆発は3度観測されている。しかしすべて肉眼で見ることはできなかった。直近、肉眼で見ることができたのは1987年、大マゼラン星雲のSN1987Aの超新星爆発で、16万光年離れた天体が、3等級まで光度を増した。このとき、カミオカンデで11個のニュートリノを観測した小柴昌俊博士は、2002年にノーベル物理学賞を受賞している。

 しかし、ベテルギウスはまったくスケールが違う。距離は地球からたった640光年。SN1987Aが16万光年、銀河系の直径が10万光年だから、対岸どころか“隣”だ。地球に降るニュートリノの数も約2,500万個と予想されている。

 ここまで近いと、地球への影響が心配になる。じつは超新星爆発が起こると強烈なガンマ線が放出され、半径5光年以内の星の生命体は全滅し、50光年以内の生命体も壊滅的な被害を受けるという。ただガンマ線が放出されるのは天体の自転軸の方向であり、ベテルギウスの軸は地球の方を向いていないため、ほとんど影響はないらしい。しかも、お隣とはいっても“光の速度”で640年かかる距離なのだ。

 と、こう聞くと多くの人がおそらく同じことを思うだろう。「いま見えているベテルギウスは640年前の姿ではないか」と。つまり「もしいま爆発したら、それは1372年、日本の室町時代に爆発したということ?」「もう実物はとっくの昔に爆発して存在しない?」と。

 じつはそのとおり。しかし、この世で最も高速な光が届かない距離間においては情報の伝達がないのと同じで、空間的・時間的な因果関係が説明できない。詳しく解説するには相対性理論を理解する必要があるので、結論だけ言えば「あまりに遠すぎて、考えても無駄」ということなのだ。

 それにしても、この人類史上最大の天体ショーはいつ始まるのだろう。奇しくも2012年は、天文イベントの当たり年。火星の大接近(3月)、金環日食(5月)、金星の太陽面通過(6月)、木星食(7月)、金星食(8月)など、天文ファンなら夜空から目が離せない。しかも高度な天文学に基づくマヤ暦が“地球の終焉”と予言する年でもある。いま、こうしている瞬間にも、大量のニュートリノを検出したという警報音が鳴り響いているのかも知れない。

WJC vol.73 (2012.4.20発行号)掲載
可知 朗(かち あきら)
南山大学卒業。広告代理店から広告プロダクションを経て、フリーライターとして独立。現在は“自分史活用アドバイザー”として、さまざまな自分史・家族史の執筆にも携わる。

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