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テクノロジー

人類、地球脱出へのシナリオ1

2010.12.20

取材・文:藤井たかの
写真提供:NASA


もし、この地球を飛び出して宇宙に行くことができたら……あなたならどんなことをしてみたいですか? 家族や恋人と地球を眺めて思いを馳せるのもいいし、無重力空間を存分に楽しむのもいいでしょう。チャーハン作りにチャレンジするのもアリです。自分としてはやっぱりスペース合コン! 勢いよくカンパイすれば反作用で全員が後ろにのけぞり、酔った女子をあらゆる角度から介抱する。セッティングも壮大に、「集合場所は月!」。オホン……マジメな話、多くの宇宙飛行士が「宇宙から丸い地球を眺めれば、人類同士の争いがバカバカしく思えてくる」と語っています。なかには、宇宙で瞬間的に真理を悟ったり、神の存在を感じたり、後に超能力の研究に没頭した人もいます。それほどまでに宇宙に行くということは、人生観を変える大きな体験なのでしょう。さらにスケールを広げれば、数億年前に地球上で生物が海から陸に上がった時に進化したように、人類が地球を離れて宇宙に進出した暁には、覚醒する可能性だってあるわけです。……いわゆるガンダムのニュータイプ論ですが、あながち夢物語ではないかもしれません。

 思えば、1961年、ユーリイ・ガガーリンが人類初の有人宇宙飛行に成功した後も、人類は宇宙を目指し続け、すでに世界中で500人を超える人が宇宙という未開の地を体験しました。そして、今や訓練をした宇宙飛行士でなくても、宇宙に行ける時代になったのです。世界中で7人の一般人が自費で1週間の宇宙旅行を体験済み。その価格なんと当時約22億円! 「絶対、ムリッ!」と、言う前に話を聞いてください。半世紀前の日本では海外旅行も高額で富裕層しか行けませんでした。同様に将来的に宇宙旅行のインフラが整い、価格が下がれば、庶民の僕でも生きているうちに宇宙に行ける日が来るはずです!

 では、リアルな話、宇宙開発はどこまで進んでいるのでしょうか? ここではその可能性を検証していきます!

これまで宇宙に行く手段は主に「スペースシャトル」が担っていたが、2010年中に退役が決定している。NASAが開発中の後継機「オリオン」のお披露目は2015年で、その間はロシアのソユーズ宇宙船が中心となり人類を宇宙に運ぶ役目を担う。そして、現在、国の機関以外にもさまざまなベンチャー企業が宇宙ロケットを開発している。さらに一歩進んで宇宙に住むためには、人工的に重力や酸素を発生させる「スペースコロニー」の開発や、惑星を地球と同じ、人間が住める環境に変えていく「テラフォーミング」の構想などが考えられる。果たしてこれらはSFの産物で終わってしまうのだろうか?

人類、地球脱出へのシナリオ2

2010.12.20

 サッカースタジアムと同じくらいの面積をもつ巨大建造物が、僕らの暮らす地球上空約350㎞を移動し続けていることをご存じでしたか? それが、1982年から計画・設計が始まり、1998年から建設がスタートした国際宇宙ステーション(以下ISS)です。今年の4月に山崎直子宇宙飛行士が滞在したのも、若田光一宇宙飛行士が「魔法のじゅうたん」を披露したのもこのISSなのです。

地球上空約350㎞を移動するISS。日の出前と日没後が肉眼で確認するチャンス! 
写真提供:NASA

 アメリカやロシア、日本、カナダ、欧州宇宙機関の加盟国など世界15カ国が参加するISS計画は、人類史上最大の宇宙プロジェクト。あまりに巨大なISSは、当然、一度に宇宙に打ち上げて作ることはできません。そこで、パーツごとに分割し、スペースシャトルやソユーズ宇宙船などを使い40回以上に分けて打ち上げ、組み立ててきたのです。言うなれば、世界各国が協力して宇宙で巨大なプラモデルを作っているようなもの。そして、計画から20年以上の歳月を経て、ついに今年の秋に完成予定なのです! あとはステッカー貼って仕上げ? みたいな。

 このISSの目的は「宇宙環境を最大限に利用して、さまざまな分野の実験や研究を行う」こと。なにも宇宙飛行士は縄跳びをしたり、琴を弾くためにISSに行っているんじゃないんです。例えば、微少重力の環境を利用した生物実験や材料実験、地上では結晶を得ることが難しいタンパク質の結晶生成実験などが行われています。また、宇宙での生活に関わるのが、宇宙空間や宇宙飛行下での条件によって、人体にどんな影響を及ぼすかを研究・解明する「ライフサイエンス(生命科学)」です。
 僕らが宇宙に行くためには、単にロケットが進化するだけではダメ。宇宙には宇宙放射線が飛び交っているし、無重力状態では筋肉や骨密度が減少し、地上での10年分に近い老化現象が数ヵ月で起こるといわれています。無重力状態で体液が上昇するためにおこる「宇宙酔い」のメカニズムも、まだ解明されていません。人類が安全かつ快適に宇宙に行くには、過酷すぎる宇宙環境を克服することが必須なのです。当然、ISSが完成した暁には宇宙環境を利用した実験は今よりもドライブがかかるはず!
 もちろん、完成後も日本人宇宙飛行士は活躍します。2011年に古川聡宇宙飛行士、2012年に星出彰彦宇宙飛行士がISSの長期滞在を予定しています。
 今後の人類の宇宙進出の鍵を握るISSですが、じつは条件さえそろえば地上から肉眼で確認することができます。この秋はISS完成を祈りつつ、空を眺めて思いを馳せるのはいかがでしょう?

宇宙ビジネスコンサルタントが語る
これからの宇宙開発の行方
官から民へ?

ヴァージン・ギャラクティック社」をはじめ、ベンチャー企業による宇宙旅行や宇宙輸送機の開発が着々と進んでいる
cirgin Galactic

 もはや完成までカウントダウン状態といえるISSは今後どうなるのか? 民間の宇宙開発は今、どうなっているのか? ここでは、宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんに、これからの宇宙の動向について伺いました。
「今後も、惑星探査や月や火星を目指すような大きなプロジェクトは国がリーダーシップをとって行われますが、地球近傍の宇宙活動に関しては商業化が進むと思います。例えば、ISSの運用期間は2020年までに延長するということで合意が得られて調整が進んでいますが、ISSにおいても商業利用が進むと考えられます。また、ISSの運用そのものが民営化する可能性もゼロではないでしょう。あまり知られていませんが、スペースシャトルも運行が定常化した後は民間企業に運行を移管しています。かつて旧ソビエトが打ち上げた宇宙ステーション『ミール』も最終的には民間が買い取り、宇宙ホテル利用など、商業利用の準備を進めていました。ただ、民営化してほどなく最終的に大気圏に再突入させて廃棄処分されましたが」
 

今後も増え続けるであろう民間企業の宇宙開発への参入で、宇宙に行く日が早まるかも?
cirgin Galactic

燃やすなんてもったいない! これからは宇宙も「官から民へ!」みたいな?
「最大の問題はコストです。ISSが完成した後も、日本は運用と利用に年間約400億円を支出する予定です。どの国にとっても負担は大きいのです。スペースシャトルにせよ、ISSにせよ、はじめは国家プロジェクトとして実現し、実績ができれば商業利用したり、民間が運営する。これは宇宙開発における自然の流れだと思います。一方で米国を中心とした起業家たちが開発したロケットによる宇宙へのアクセスや宇宙旅行や宇宙ホテルなど、宇宙ベンチャーによる地球近傍の商業活動も急成長しています」
 日本でも、2007年に国産ロケットの打ち上げが三菱重工業に移管されました。韓国航空宇宙研究院(KARI)から、多目的実用衛星「コンプサット3」の打ち上げと運用を受注しています。メイド・イン・ジャパンのロケットを使い、初めて海外衛星の商用打ち上げを行うことになるのです。
 国と民間企業が連携を図ることで、今後の宇宙開発が躍進することを期待します!

大貫 美鈴 (おおぬき みすず)
日本女子大卒業後、大手建設会社の宇宙開発室に勤務。同社の宇宙ホテル構想の提案が発端となり、以降、宇宙旅行に一貫して関わる。2000年、女性宇宙フォーラムを設立し、宇宙での衣食アートに着目した提案を当時のNASDA(現JAXA)に応募して共同研究を実施。現在は、宇宙ビジネスコンサルタントとして海外の宇宙企業のプロジェクトにも参画。アメリカの宇宙ベンチャー企業、起業家ら100社近くが所属する宇宙財団「スペースフロンティアファンデーション」の理事・アジア圏代表として、商業宇宙開発を推進するニュースペースの流れを盛り立てる一方、宇宙旅行にファッションを取り入れたり、宇宙ウエディングを提案するなど『身近な宇宙』を広めるために活動中。東京都出身。

大貫 美鈴(著)
来週、宇宙に行ってきます
価格:1,575円(税込)
出版社:春日出版

人類、地球脱出へのシナリオ3

2010.12.20

Space Travel

できることなら行ってみたい!「だれもが行ける宇宙旅行」は実現できるのか?

宇宙飛行士でもない一般人が、宇宙に行くにはどうすればいいのか? 現状、考えられる方法は、民間企業が進めている宇宙旅行に申し込むこと。ひとつは、ISSに1週間滞在する「オービタル旅行」。米国の「スペース・アドベンチャーズ社」によって、2001年に世界最初の民間宇宙旅行が実現しています。お値段は約35億円。……次いってみよう!
 より現実的なのは、宇宙と定義される地球上空100㎞まで飛び、宇宙と地上の境界線を越えて降りてくる「サブオービタル旅行」。宇宙に入った! と思ったら約5分の無重力の後、急降下。……若干、物足りない気がしますが、それでも宇宙を体験したい人にはたまらないはず。ただし、このサブオービタル旅行はまだ実現していません。さまざまな企業が実現を目指すなかで、最有力株は航空会社も運営するヴァージングループによる「ヴァージン・ギャラクティック社」です。すでに高度100㎞を超える飛行を宇宙船「スペースシップ1」で実現。「スペースシップ2」も公開され、2011年中に商業運行に乗り出す予定です。ただ、スペースシップ2は8人乗りの空中発射式のため機体が大がかり。運行許可の認定やテストフライトのハードルもそのぶん高い。そこで、台風の目といえるのが「エクスコア社」。同社のロケット「リンクス」は一段型のシンプルな2人乗り。当然テストフライトなどのハードルは下がるので、実現の可能性アップ!

 サブオービタル旅行が成功して、じゃんじゃん宇宙飛行機を飛ばして稼働率が上がれば、価格は数年以内に300万~500万円まで下がると言われています。近い将来、「クルマを買うか宇宙に行くか」を迷う時代が来るかもしれませんよ。

Space Elevator

子どもや高齢者でも行けるかも?思い立ったらすぐ宇宙〟を叶える「宇宙エレベーター」計画

なにもバカ高いお金を払ってロケットに乗らなくても、もっと安くて気軽に宇宙に行く方法があります。それが天から垂れた糸で宇宙に行く「宇宙エレベーター」です。この宇宙エレベーターさえ完成すれば、ロケットを飛ばすことなく宇宙に行くことができて、製造・打ち上げコストもスペースシャトルの100分の1になる。しかも、特別な訓練をしなくても宇宙に行けるんです!

宇宙エレベーター基本原理概念図の一例
chigeo Saito(JSEA)

 では、宇宙エレベーターの構造を簡単に説明しましょう。まず、全長5万~10万㎞のケーブルを用意します。次に、地球の自転と平行して24時間周期で1周する高度約3万6000㎞の「静止軌道」にステーションをスタンバイ。ステーションから地球に向けて下にケーブルを延ばし、反対に上にもケーブルを延ばして先におもりをつけ、高度約10万㎞まで到達すれば、引力と重力のバランスが保てます。あとは、台風などの被害が少ない地球の赤道上に出発ステーション(海上ポート)を作り、そこからエレベーターを昇らせます。高度約400㎞あたりに途中休憩用の低軌道ステーションを作るのもアリ。これで開発にかかる費用は約1兆円、じつはつくばエクスプレスを作るのとほぼ同額なんですよ。

宇宙エレベーター基本的な構造説明図の一例
chigeo Saito(JSEA)

 そもそも、この宇宙エレベーターの構想は100年以上前から存在しましたが、ケーブルとなる強靱な素材が存在せず、SFの世界の夢物語にとどまっていました。しかし、1991年に日本のNEC基礎研究所の飯島澄男氏(名城大学教授)が「カーボンナノチューブ」を発見したことで、俄然、現実味を帯びてきたんです。ただ、個人的に気になることが一点。カーボン(炭)、ナノ(10億分の1)のチューブでしょ。もしかして、顕微鏡でしか確認できないようなミクロなものじゃないの? 宇宙エレベーター協会の大島佳世子さん、教えてください!
「カーボンナノチューブは顕微鏡だけの世界ではありません。ケンブリッジ大学や静岡大学などで研究が進められていて、すでにフェルトのような繊維状のものが開発されています。現段階では、それを10万㎞に伸ばしても、強度が保てずに切れてしまいますが、数年後には宇宙エレベーター建設に耐えられるものができると考えられています」

宇宙エレベーター予想図
NASA Marshall Space Flight Center (NASA-MSFC)

 確実に研究は進んでいるんですね! ほかに実現への懸念材料はありますか?
「振動の問題や、ほかの人工衛星やスペースデブリ(宇宙ゴミ)との衝突、テロの懸念、法律の整備などさまざまな課題が残されています。運用も一国や一団体ではなく、国連のような組織が運営することが望ましいと思います」
いつだって現実はキビシイ……。2030年に実現予定と言われていますが、本当ですか?「技術的な研究・開発だけなら30年ぐらいで実現すると言われていますが、同時に先ほどの課題をすべてクリアしないといけないので、今はなんとも……」

 まぁ、生きているうちに乗れればいいかしら。しかも、実現すれば世界一周旅行と同額程度で宇宙に行けるらしい。よしっ! 今からコツコツ貯金しておきますか!


写真提供:NASA