ワールドジョイントクラブ » 日本の外来生物 » “日本で新発見された外来生物”という奇異な存在 – ウスグモスズ

ウスグモスズは雄も鳴かないため、ほかのコオロギと違い発音器となる羽が複雑な模様になっていないのが特徴だ
ウスグモスズが増えつつある東京都下、多摩丘陵の里山風景。都市近郊の貴重な自然環境として保護された緑地の中にも、このほかガビチョウやアカボシゴマダラなど数多くの外来生物が入り込みはじめている
ウスグモスズに似ている在来種、クサヒバリの雌。やや大きく、後足に黒い筋の模様があることで見分けられる。クサヒバリ自体は普通種だが、この仲間にはレッドデータブックに登録された希少種も多い
そもそも外来生物というものは、すでに海外のどこかの国で知られていた生物が日本国内で世代を繰り返すようになった場合にそう呼ばれるはず。だが、それに当てはまらないのがこのウスグモスズだ。
発見されたのはごく最近。1970年に新属・新種として報告されている。これがたとえば白神山地の奥深くなら素直に在来種の新発見ということになっただろうが、見つかったのは東京都渋谷区。いくらなんでも、ある程度の大きさを持つ昆虫が東京に古くから住み着いていてそれまで知られていないわけはなく、原産地不詳のまま外来種と推定された。
見た目のとおり、広く言えばコオロギ。近い仲間には林縁のヤブなどで「フィリリリリ……」と美しい声で鳴くクサヒバリがいるけれど、なぜかこの虫は鳴くことはない。そのせいもあってかしばらくは再発見されず“幻のコオロギ”とさえ言われていたほどだが、80年代に入って関東各地で報告されるようになり、現在では大阪、京都などの市街地や滋賀県の郊外でも見つかっている。
そして、いまだこの虫の素性はわからないままだ。ウスグモスズは“日本で新発見され、日本でしか確認されていない外来生物”という妙な存在になってしまった。
アオマツムシのようにうるさいほどに合唱するわけでもなく、ましてやほかの在来生物を直接捕食して絶滅させたり、作物に害を与えたりするわけでもない。外来生物に対して注目が高まっている現在でも、このウスグモスズのように直接の影響が確認できないものに関しては、ごく一部の専門家以外はほとんど無視しているようなものだ。
ただ、限られた、そして狭められつつある日本の自然環境の中で、外来生物の増殖が在来種に影響を与えないわけはない。この写真を撮影した多摩丘陵などでは、ウスグモスズは里山のヤブなどでごく普通に見られるようになっている。当然、そこにいた在来種とは競合しているはずだ。短絡的に駆除するなどは論外としても、こういった“静かな侵入者”に対しても注目していくことが必要だろう。
文・撮影/上田泰久 道草ネイチャーウォッチング